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東京地方裁判所 昭和45年(特わ)97号 判決

被告人

1

本店所在地 東京都中央区銀座六丁目八番一号

池田商事有限会社

(代表者代表取締役 池田慶次郎)

2

本籍 東京都渋谷区神宮前三丁目二〇四番地

住居

同区神宮前三丁目一三番一二号

会社役員

隆彦こと

池田慶次郎

大正四年一一月二〇日生

被告事件

被告会社につき法人税法違反、被告人池田につき所得税法違反、法人税法違反

出席検察官

秋田清夫

主文

1  被告池田商事有限会社を罰金一五〇万円に、被告人池田慶次郎を懲役六月および罰金三五〇万円にそれぞれ処する。

2  被告人池田において右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

3  被告人池田に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する

理由

(罪となるべき事実)

被告池田商事有限会社は、東京都中央区銀座六丁目八番一号に本店を置き、バー等の経営を営業目的とする資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人池田慶次郎は、昭和三九年四月ころから同四二年一二月三一日までの間同所においてクラブアベニユーの名称で個人でバーを経営し、その後昭和四三年一月一日からは前記被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統轄していたものであるが、被告人池田は

第一  自己の所得税を免れる目的で、売上の一部を除外して簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

一、昭和四一年分の実際課税総所得金額が一九、九〇八、八〇〇円あつたのにかかわらず、昭和四二年二月二二日同都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、同年分の課税総所得金額が、三、二九八、八〇〇円で、これに対する所得税額が九〇七、〇九〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額九、五三七、四一〇円と右申告税額との差額八、六三〇、三二〇円を免れ

二、昭和四二年分の実際課税総所得金額が一五、六九一、〇〇〇円あつたのにかかわらず、昭和四三年三月一一日同都中央区新富町三丁目三番地所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、同年分の課税総所得金額が七、二七三、〇〇〇円で、これに対する所得税額が二、七〇五、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額七、一九八、八〇〇円と右申告税額との差額四、四九三、五〇〇円を免れ

第二、被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的で、売上の一部を除外して簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和四三年一月一日から同四三年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一九、三七九、〇四〇円あつたのにかかわらず、昭和四四年二月二七日前記所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四、六八七、六一七円で、これに対する法人税額が一、三五九、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額六、四八七、二〇〇円と右申告税額との差額五、一二七、六〇〇円を免れ

たものである。

(なお、右各逋脱所得金額の内容は別紙一ないし三の各修正貸借対照表のとおりであり、右各税額の計算は別紙四の税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)(かつこ内は立証事項であり、数字は別紙一ないし三の各修正貸借対照表の各勘定科目の番号を示す。)

一、大蔵事務官作成の次の書面

1 銀行預金調査書(検察官証拠請求番号甲一の53)(四の2 3 4 5 27 28、五の2 4 5 6 30 31、六の3)

2 銀行預金調査書(右同請求番号甲一の54)(五の2 4 5 6、六の2 3 4 5 26)

3 預金調査書(四の2、五の2、六の3)

4 売掛金計算表(四の6、五の7、六の6)

5 減価償却計算書(昭和四四年一一月一日付)(四の13 14 15 16、五の14 16 17 19)

6 減価償却計算書(同月四日付)(六の14 15 17 18 19)

7 池田慶次郎勘定調査書(四の18、五の21、六の26)

8 貸倒金調査書(四の6、五の7、六の6)

9 アドバンス貸倒金調査書(四の7、五の8、六の7)

10 貸倒損失に関する調査書(五の7、21、六の6)

11 書画骨との品等調査書(五の20、六の20)

12 仕入および買掛金調査書(前同請求番号甲一の64)(四の19、五の22)

13 仕入および買掛金調査書(右同請求番号甲一の65)(六の21 22 26)

14 経費調査書(五の28)

15 池田ミツイ名義借入金および支払利息計算表(四の21)

16 譲渡所得計算書(五の32)

一、大蔵事務官作成の次の検査てん末書

1 昭和信用金庫本店に関するもの(四の4 5、五の4 5)

2 平和相互銀行銀座支店に関するもの(五の4)

3 東京都民銀行銀座支店に関するもの(五の5 6)

一、検察事務官作成の捜査報告書(五の28)

一、昭和信用金庫本店営業部長上野重三作成の普通預金元帳等の写提出についてと題する書面(四の2、五の2、六の3)

一、東京都民銀行銀座支店長小林広太郎作成の証明書(元帳写)(四の2、五の2、六の3 22)

一、昭和信用金庫京橋支店長萩原幹雄作成の証明書二通(六の3 4 5)

一、日本勧業銀行新橋支店長鈴木勲作成の証明書(四の2 3、五の2、六の2 3)

一、三和銀行銀座支店長藤井義弘作成の証明書(四の2、五の2、六の3)

一、富士銀行数寄屋橋支店長戸倉実作成の証明書(四の2、五の2、六の3)

一、石黒時子の大蔵事務官に対する昭和四四年一一月四日付質問てん末書(四の6、五の7、六の6)

一、次の者の検察官に対する供述調書

1 石黒時子(全般)

2 樋渡繁治(昭和四五年二月五日付)(四の22)

3 遠藤甲司(六の26)

一、石黒時子作成の次の上申書

1 各年別売掛金について(四の6、五の7、六の6)

2 各年別の店扱売掛金について(四の6、五の7、六の6)

3 ホステスに対するアドバンス(貸付金)について(四の7、五の8、六の7)

4 ホステスに対するアドバンス(貸付金)の貸倒について(四の7、五の8、六の7)

5 各年別の月別ホステス別の純売上回収表(四の6、五の7、六の6)

一、次の者作成の上申書

1 遠藤緝次(四の22)

2 高瀬孝三(四の20、五の23、六の22)

一、登記官作成の登記簿謄本(全般)

一、検察事務官作成の電話聴取書二通(全般)

一、押収してある次の証拠物(○内の数字は昭和四五年押一、三〇〇号のうちの符号を示す。)

1 41年分の所得税確定申告書および所得税青色申告決算書一綴〈1〉(全般)

2 42年分の所得税の確定申告書一綴〈2〉(全般)

3 法人税決議書綴一綴〈3〉(全般)

4 手帳一冊〈4〉(四の7、五の8、六の7)

5 メモ帳一冊〈5〉(四の7、五の8、六の7)

6 無標題大学ノート一冊〈10〉(六と1)

7 無標題ノート一綴〈11〉(五の1、六の1)

8 手帳二冊〈12〉(五の8、六の7)

9 総勘定元帳二綴〈16〉〈17〉(全般)

10 売上帳四冊〈18〉(四の6、五の7)

11 退店者控録一綴〈19〉(四の7、五の8)

12 ホステス別売掛表一袋〈20〉(四の6、五の7、六の6)

13 ホステス別売掛帳五綴〈21〉(四の6、五の7、六の6)

14 売掛帳一冊〈22〉(六の6)

15 総勘定元帳二綴〈24〉〈25〉(全般)

16 入店誓約書一袋〈27〉(六の7)

一、被告人池田の大蔵事務官に対する次の質問てん末書

1 昭和四四年一〇月一五日付(四の6、五の7、六の6)

2 同年一一月六日付(四の6 9、五の7 8、六の6 7)

3 昭和四五年一月一二日付(四の22)

一、被告人池田作成の上申書(貸倒金について)(四の6、五の7、六の6)

一、被告人池田の検察官に対する各供述調書(全般)

一、被告人池田の当公判廷における供述(全般)

(弁護人の主張に対する判断)

第一、弁護人の主張

一、検察官提出の冒頭陳述要旨別紙第三の〈6〉(別紙第六の6)売掛金期末実際金額二八、二四八、五四六円のうち、次の売掛金合計一、九三二、〇三四円はいずれも貸倒金として控除されるべきである。

(一) 店扱いの顧客に対する売掛金合計七一七、三二〇円

顧客名 売掛金額(昭和四三年一二月三一日現在) 貸倒理由

1 今井 三四、〇四五円 所在不明

2 西村 四六三、五六三円 〃

3 原・波多野 一四九、八七〇円 〃

4 児玉 六九、八五二円 〃

(二) ホステス扱いの顧客に対する売掛金合計一、二一四、七一四円

ホステス名 売掛金額(昭和四三年一二月三一日現在) 貸倒理由

1 北条 九九、八二一円 所在不明

2 悦子 七五、三一五円 〃

3 小  四九〇、八六五円 〃

4 萩原 五四八、七一三円 〃

二、前記冒頭陳述要旨別紙第三の〈7〉(別紙第六の7)アドバンス(貸付金)期末実際金額五、五五七、〇九一円のうち、次のホステスに対するアドバンス(貸付金)合計一、七二九、二三〇円はいずれも貸倒金として控除されるべきである。

ホステス名

アドバンス金額

(昭和四三年一二月三一日現在)

貸倒理由

1 西尾ひとみ

四五〇、七三〇円

取立不能

2 館下幸子

五〇、〇〇〇円

所在不明

3 和田政江

四〇、五六〇円

死亡

4 西原しのぶ

八四五、〇四〇円

取立不能

5 町田佐代

三〇〇、〇〇〇円

所在不明

6 平井英子

四二、九〇〇円

所在不明

第二、当裁判所の判断

一、店扱いの顧客に対する売掛金について

被告人池田の昭和四四年一一月六日付蔵事務官に対する質問てん末書および昭和四五年二月九日付検察官に対する供述調書によると、被告人池田は本件脱税事件の査察ないし捜査にあたつた査察官および検察官に対し、被告人池田が国税局に上申書(貸倒金についてと題するもの)を提出した昭和四四年一〇月一三日当時弁護人主張の四名の顧客に対する売掛金はいずれも未だ取立が可能であつた旨述べているので、右四名に対する売掛金はいずれも昭和四三年一二月三一日現在貸倒れになつていたものとは認められない。

二、ホステス扱いの顧客に対する売掛金について

バー等の飲食代金の売掛金は、最後の弁済の時から一年を経過し、かつ貸主においてその回収を断念したときに貸倒れを認めるのが相当である。ところで、大蔵事務官作成の貸倒金調書、石黒時子作成の各年別売掛金についてと題する上申書によると、弁護人主張のホステス四名の扱つた売掛金については、いずれも昭和四三年中にその一部が回収されていることが認められる。従つて右各売掛金はいずれも昭和四三年一二月三一日現在、未だ最後の弁済の時から一年を経過していないので、昭和四三年度において貸倒れを認めるのは相当でない。

なお、弁護人は、ホステス扱いの顧客に対する売掛金はそのホステスが退店するとすべて回収不能になると主張しているけれども、右各証拠および押収してあるホステス別売掛帳五綴(昭和四五年押一、三〇〇号の21)によると、ホステス退店後においてもそのホステスの扱つた売掛金が回収されていること、被告会社の帳簿にホステス扱い分についても顧客の氏名、勤務先等が記帳されていることが認められるので、ホステスが退店しても、直ちにその売掛金が回収不能になるものとは認められない。

また、弁護人は、店扱いの顧客である倉持、松本に対する売掛金およびホステス栄子、八千代、松山、冷子の扱つた売掛金はいずれも発生ないし最後の弁済のときから一年未経過で貸倒れを認容されている旨主張するけれども、大蔵事務官作成の貸倒調査書によると、右売掛金はいずれも一年経過後に貸倒れを認容されていることが明らかである。

三、ホステスに対するアドバンス(貸付金)について

弁護人主張のホステス六名に対するアドバンス(貸付金)は、いずれも被告会社の公表帳簿である総勘定元帳(前同押号の25)に計上されている。ところで、公表された貸付金については、それが債務免除等により法的に消滅したものと認められる場合には無条件にその年度において貸倒れを認めるのが相当であるが、それが法的に消滅したものとは認められず、単に事実上回収不能な状態にあるに過ぎない場合には、損金計理をすることを条件に貸倒れを認めるのが相当である。被告会社においては、右六名に対するアドバンス(貸付金)につき昭和四三年度において損金計理をしていないから、これを同年度の貸倒れと認めることはできない。

よつて弁護人の主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

被告人池田の判示第一の各所為はいずれも所得税法二三八条に、第二の所為は被告人池田につき法人税法一五九条に、被告会社につき同条、同法一六四条一項にそれぞれ該当するところ、被告人池田に関し、第一の各罪についてはいずれも懲役刑および罰金刑を併科し、第二の罪については懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、被告人池田につき懲役刑に関し同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑に関し同法四八条二項により各罪所定の罰金を合算し、右刑期および金額の範囲内で被告人池田を懲役六月および罰金三五〇万円に処し、被告会社については所定罰金額の範囲内で被告会社を罰金一五〇万円に処する。なお換刑処分につき同法一八条、執行猶予につき同法二五条一項を各適用する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昭徳)

別紙一

修正貸借対照表

池田慶次郎 昭和41年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙二

修正貸借対照表

池田慶次郎 昭和42年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙三

修正貸借対照表

池田商事有限会社 昭和43年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙三

修正貸借対照表

池田商事有限会社 昭和43年1月1日

〈省略〉

別紙四

課税総所得金額及び 脱税額計算書

〈省略〉

注1.19,908,800×55%-1,412,430=9,537,410

注2.15,691,000×55%-1,431,200=7,198,850

法人税額計算書(43.1.1~43.12.31)

〈省略〉

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